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熊本市動物愛護センター「命の取り組み」

保護活動より・・・

熊本市動物愛護センターは「殺処分ゼロ」を目指しています。
昨年4月から現在まで「処分」はわずか1匹、炭酸ガス処分機は3年間作動してないそうです。

「人間の都合で罪のない動物を不幸にしたくない」
…職員の熱意が実現させました。


以下、「女性自身」2月16日号より転載…


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かわいくなくなった、飽きた…飼い主の身勝手な理由から処分される犬たち。弄ばれる「不幸な命」を減らすための地道な取り組みが成果を上げている。

「このスイッチを押すと、ガチャッという音とともに、処分機が密閉される。それが、動物たちの生と死の境目なんです。この音を聞くのが、嫌で嫌でたまりませんでした」

そう話すのは熊本市動物愛護センターの松崎正吉所長(53)。スイッチひとつで、炭酸ガスが充満し、あっという間に動物たちの命を奪う処分機。この70センチ四方の鉄の塊は、もう3年間、作動していない…

ペットブームの陰で、昨年殺処分された犬や猫は、全国で約30万匹。この愛護センターでも、10年ほど前までは、毎年1000匹弱の犬を処分していた。

しかし、その後、殺処分ゼロを目指した取り組みを行い、昨年4月から現在までの間に処分された犬は、わずか1匹。どんなに訓練しても人になつかず、職員にかみつく事故も起こったため、やむをえず麻酔注射を打った。現在、56匹犬を保護している。

本格的に取り組みを始めたのは、松崎さんが異動してきた、平成13年だった。それまで、獣医として14年間動物園に勤務していた松崎さんは、動物園の動物と愛護センターの動物の「命の重み」の違いに衝撃を受けたという。

「動物園では、いつもぴりぴりしながら動物の健康状態をチェックしています。それなのに、愛護センターでは、動物がどんどん持ち込まれ、処分せざるをえない状況になっている。愛される動物もいるのに、なぜ、ここではこんなに違うのかと悩みました。とにかく、処分なんてしたくなかったんです」

処分なんてしたくない、そう悩んでいたのは、松崎さんだけではなかった。世話をしきれないペットを飼い主からどんどん預かり、殺処分するというシステムに、職員はみんな苦しんでいた。

「動物には罪はない。幸せになるも不幸になるも、飼い主次第なんです。それなのに、動物たちを処分しなければいけないのですから、職場は、いつも暗い雰囲気でした。動物行政に携わっている人は、誰も処分なんかしたくないのに、市民からは『犬殺し』などと言われ、どうして自分たちがつらい思いをしなければいけないのか、悔しくて仕方ないというのもありました」

それならば、できるだけ処分しなくてもすむ方法を考えよう。そこで立ち上げたのが「動物愛護推進協議会」だった。メンバーは、市の獣医師会員に加え、動物愛護団体の会員や動物取扱業者など、25名。通常、動物愛護団体は、動物を殺処分する立場の行政を非難するケースが少なくない。けれども、殺処分ゼロを目指す取り組みを成功させるには、行政だけでは限界があると考え、さまざまな立場から動物に携わる人たちに声をかけた。

「立ち上げ当初は、立場の違いから、意見も衝突しました。しかし、話し合いを重ねるうち、動物を殺処分したくないという最終目標は一緒だとわかったんです。ここで決定した取り組みで、殺処分数を激減させることができました」

その取り組みは、主に3つある。1つ目は、迷い犬を本来の飼い主に返す活動だ。

愛護センターには、捨て犬や野良犬、飼い主が連れてくる犬だけではなく、迷い犬もたくさんいる。その迷い犬の飼い主を見つけるため、愛護センターのPRに力を入れることにしたという。

「動物がいなくなったら、まず愛護センターに問い合わせる、そういう認知度を高めることが大切だと思いました。そのために、HPなどで迷い犬を預かっていることを告知したり、市役所や市民センターの掲示板に、預かっている動物の写真付きの告示文を貼ったりするようにしました」

地道な活動の成果は徐々に表れた。当初、元の飼い主に戻る変換率は、わずか10%にすぎなかったが、今年度は約45%。約半数の犬が、飼い主の元へ戻ることができた。さらに今後、力を入れていきたいのが、迷子札の普及という。「飼い主の連絡先が書かれた迷子札は、動物の命のお守りです。これを首輪につけておけば、迷子になっても、すぐに飼い主に連絡できます」

2つ目の取り組みは、飼い主の説得だ。これまで、センターでは、飼い主が引き取ってほしいと連れてきた犬は、理由も聞かずに引き取っていた。しかし、安易に引き取るのはやめ、飼い主としてできる限りのことをしてもらえるよう、説得やアドバイスに力を入れることにした。

「引っ越しなどを理由に、もう飼えなくなったから新しい飼い主にもらってほしい、というケースがありますが、新しい飼い主は、自分で探すようにお願いします。たとえば、掲示板に貼り紙をしたり、新聞広告に記事を載せたり。記事を載せるには3000~4000円のお金がかかりますが、それも飼い主の責任だと納得してもらいます」

また、老犬、鳴き声がひどい、家族をかむといった理由で、もう処分してほしい、と連れてくるケースもある。

「かまれた、などと言って興奮して連れてくる方もいますが、飼おうと思ったのはなぜですか?と、問いかけます。誰だって、処分しようと思って飼ったわけではないはず。楽しい思い出もあるはずですから、当時の気持ちを、思い出してもらえるようにします」

もう手に負えない、と犬を連れてくる飼い主たち。その原因は、しつけの失敗にあるケースが多いという。

「えさがほしい、散歩をしてほしいといって鳴くときは、相手にせず、静かになったらえさをやる、散歩に行く、というようにする。遊んでほしくて飛びかかることがあっても、無視して、静かにしたら遊んでやる。そういう基本的なしつけの仕方を、飼い主に学んでもらいます。それでいったん家へ連れて帰ってもらい、1ヶ月くらい様子を見てもダメだったら、また相談に来てもらう。飼い主として手をつくしても結果としてダメだったということであれば、私たちが引き取ります」

説得方法に、マニュアルはない。職員一人ひとりが、自分の言葉で飼い主に思いを伝えている。なぜ、すぐに預かってくれないんだ、と市民とトラブルになることもある。ときには、引き取ってしまったほうが楽なのではないか、と思うこともあるという。それでもこの方針を変えないのは、動物を殺処分することがどれほどつらいことか、身にしみてわかっているからだ。

3つ目は、新しい飼い主を探す取り組みだ。センターにいる犬をHPで紹介するほか、早くもらい手が見つかるよう、犬たちを身ぎれいにしたり、飼いやすい犬にするための、犬の訓練も忘れない。

「人の横について歩かせる練習、お座り、人と目を合わせる練習など、根気よく訓練します。気質が荒いと思っていた犬も、しつけや訓練を重ねるうちに、安心して譲り渡せる犬になってきます」

毎週水曜日は、動物の譲渡会を行っている。参加者に義務づけられる1時間程度の講習会では、明日、命がなくなる動物や、実際に動物がガス室で処分されるビデオ映像も流される。人間を信じ、死の寸前まで、飼い主を待つ動物たちの姿に、胸が苦しくなる。

「捨てられた犬がどうなるのか、知らない人は少なくありません。ただ引き取ってもらっても、責任を持って飼ってもらえなげれば、意味がない。他人に迷惑をかけるような飼い方をしてもいけません。それをわかってもらうために、この講習会を行っています」

昨年からは、センターからもらっていかれた犬のフォローも始めた。犬たちが、その後、どういう生活をしてるか、飼い主は困っていないか、職員は、時間を見つけては、一件一件訪問している。

「殺処分をしていたころは、動物に情がうつるのが嫌だからと、職員は、なるべく動物と接しないようにしていました。けれども、処分をしない取り組みを行うことで、職員も『助けるために仕事をしている』というモチベーションが高くなった。動物たちのための新しい取り組みも、どんどん生まれているんです」

昨年4月からは、捨て犬を増やさないよう、PRする活動も行っている。その一環として、これまで11の幼稚園、小学校に犬を連れて行き、子どもたちに命の大切さを伝える授業を行ってきた。

担当の村上睦子さんは、こう話す。

「最初に、犬の心臓の音を聴診器で聴いてもらいます。それから、ぬいぐるみにも聴診器をあてて、心臓の音は聴こえるかな?と子どもたちに聞くんです。ぬいぐるみは聴こえないのに、犬では音が聴こえるのはどうして?と聞くと『生きているから』という答えが返ってきます。そこで、人も動物も一緒だね、生きているんだね、ということを認識してもらいます」

どこを触れば犬は喜ぶのか、嫌がるのかなど、犬の気持ちになった接し方を教え、最後に、絵本を読み聞かせる。

「犬は飼い主によって幸せな犬になったり、不幸な犬になったりする、という内容の絵本です。その後、子どもたちにもう一度犬と触れ合わせると、最初は、かわいい、かわいい、と犬に触れていた子どもたちが、自分たちが、犬のためにできることは何だろう、と考えてくれるんです」

1時間の「命の授業」が、子どもたちを大きく成長させているのだ。

「犬を飼う権利は、誰にでもあります。でも、飼い主には、大きな責任があることもわかってほしい。かわいいだけでは、動物は飼えません。飼おうと決めたからには、最後まで他人に迷惑をかけず、愛情をもって世話をしてほしい。それが私たちの願いです」(松崎さん)

熊本市動物愛護センターの命の取り組みは、続いている。

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by cjl82810 | 2010-02-07 22:03 | 思い